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マネジメント

第79回 『わかるはず』

社長の右腕をつくる 人と組織を動かす

 組織の中で頭角を現すには、自分の力だけではどうにもならないことが多い。上司の力が必要だ。 だが、あなたが思うほど、上司はあなたを理解していない、と思っていた方がいい。

 部下は、ちょっと優秀だったりすると、つい、「オレほどの力があれば…」と天狗になることがある。
そうでなくとも、「自分の頑張りは、上司が一番わかってくれるはず」と、思い込んだりしがちだ。
 天狗もいけないが、もっとダメなのは、「わかっていてくれるはずだ」という思い込みだ。アピールしたいことがあれば、勇気を持って上司のフトコロに飛び込んでいく。
それが活路を開くことは、少なくない。

 電気部品メーカー・ヒロセ電機の社長を務められた故・酒井秀樹氏が社長のポストについたのは、37歳の時であった。
 酒井氏は、同族のあと継ぎではない。工業高校卒業後に入社し、一介の社員から37歳で社長まで駆け登ったのだ。日本の企業社会では、異例の部類に入るといってよい。

 酒井氏が入社した頃、ヒロセ電機は大手の下請工場で、メーカーから指示されるままに部品を製造していた。だが、酒井氏は、どうしてもオリジナル部品をつくってみたかった。
 その思いを抑えきれなくなった酒井氏は、思い切って上司の胸に飛び込み、自分の思いをダイレクトに伝える行動に出た。

 幸いにも、上司は酒井氏の思いをストレートに受け止めてくれた。
酒井氏が温めていた電子部品のコネクターを生産する技術部の立ち上げを認めてくれた。ただし、部員は酒井氏一人だけだったという。

 この技術を着々と育て、部の年商を5億円規模までにした頃、この分野の世界的大手企業が、日本市場に進出してきた。
 酒井氏は、再び上司の胸に飛び込み、そして、いち早く部品を海外に委託生産させるアイデアをアピールした。いまで云う「ファブレス経営」だ。
 そうして、自社の数十倍の規模を持つ大敵に飲み込まれるかもしれない危機を乗り越え、さらには、技術部をきわめて利益率のよいセクションに育て上げたのである。

 1971年、創業社長の廣瀬銈三氏が亡くなり、後継社長として酒井氏の名前があがった。誰一人、異論は無かった。

 酒井氏は、フトコロの大きな上司に恵まれたラッキーパーソンだったのだろうか?
 それもある、だが、それ以上に、酒井氏の社長への道を開いたのは、あくまでも、氏の行動力であった。虚心坦懐(きょしんたんかい)、まっしぐらに自分の胸に飛び込まれて、それをハネ退ける上司はあまりいないものだ

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