「ジャパンモビリティーショー2023」展示レビュー
ビジョンは一定以上に示されているのではないかというのが、私の感想でした。会場のなかから、個人的に惹かれた展示のいくつかについて、ここからお伝えしていきます。
まず、西展示棟にある大型シアターに映し出されていた、東京を舞台にした近未来のモビリティ社会の予想動画です。6分程度の短い作品ですが、これからの社会に実装されそうな技術などを端的に知ることができます。昔のSF的な夢物語ではなくて、「ああ、これは実現できそうだな」と思わせる内容が中心だったのもよかった。
次は東展示棟です。こちらは過去の「東京モーターショー」のような大手自動車メーカーのブースが多く並んでいるエリア。トヨタ自動車は、コンパクトな箱型EVをメインステージの一角に展示していました。物流を救う存在としても有用でしょうし、個人オーナーが移動に使うのにもよさそうな存在です。
夢だけを見せてくれるようなコンセプトモデルに終わらず、市販のモデルに落とし込めそうな作り込みとなっている印象で、これは近い時期のモビリティとして実現が十分に可能でしょう。
ホンダのブースでは、自動運転システムを組み込んだコミューターのほか、折りたたんでクルマのなかに収められそうな超小型の二輪EVなどが展示されていました。私がなかでも興味を抱いたのは、外板パネルに再利用のアクリル樹脂を用いたというコンセプトモデルです。資源の有効活用を掲げ、一度使った樹脂をクルマ生産に生かすというもの。
移動の自由を確保するには、こうした“折り合いの付け方“も重要になってきます。その点で、説得力ある展示だと感じました。
会場のなかをめぐっていると、おっ?と思わせる場面にしばしば出逢いました。電動車椅子に乗った来場者の姿を各所で目にしたのです。
次世代型の電動車椅子開発と販売で知られるベンチャー企業のWHILLが、会場内に20台の電動車椅子を配備して、来場者が自由に使っていいように対応していました。限られた試乗スペースを区切っているのではなくて、会場を自由に乗って構わないというところがミソです。この電動車椅子には通信機能を備えているので、WHILLの側は、貸し出している電動車椅子たちが会場内のどの場所にいるか、ちゃんと把握できているとも聞きました。
この試みを評価したいのは、「ジャパンモビリティショー2023」の会場そのものに、新しいパーソナルモビリティ(ここで言うと電動車椅子)がどう溶け込むのか、乗る人もその様子を見る人も、しっかりと体感できるというところです。
先ほどお話ししたように、今回の「ジャパンモビリティショー2023」では、未来へのビジョンがある程度示されていたように感じられましたが、このWHILLがそうであったように、「それぞれのブースに展示されているモビリティやコンセプトモデルなどが、今後の社会で、いったいどの位置を具体的に担うのか」を、全体像のなかでさらにくっきりと伝え切ってくれていたら、なおよかったのでは、とは思いました。次回はそのあたりにも期待したいところです。
2