其の七-1
バランスシートは並べて見るべし(年次編)
とにかくバランスシートを見ればいいかといいますと、損益計算書とは違い、見方に工夫が必要になります。
バランスシートは、単年度や、ある月末の試算表の数字だけをじっと見ても、なかなかバランスシートの叫び声は聞こえにくいものです。
叫び声が聞こえなければ、バランスシートの心地よさも感じられません。
損益計算書以上にバランスシートは、月次、年次の数字を並べて見なければ、なかなか数字の叫び声が聞こえてきません。
では、数字を並べておけば叫び声が聞こえてくるものでしょうか。
ポイントは、バランスシートの残高はそれほど変化しない性質があることを知っておくことです。
例えば、現金預金の月末の残高は、大抵、毎月、同じ金額に落ち着くものです。しかし、変化がないからといってバランスシートを見ない理由にはなりません。
この現金預金ですが、残高試算表のみで判断することは危険です。合計試算表の借方と貸方の金額にも注視しなければいけません。合計試算表には、一ヶ月の現金預金の増加減少のボリュームが記載されますが、その金額があまりに大きい場合は、資金移動が激しく、危険な兆候を表しているものです。
投資家から、投資先の何を見ればいいのか、よく質問がありますが、最低でも、過去10年間のバランスシートを並べてみる必要があります。
例えば、A社の株を買いたいと思った場合、事前に何をすればいいのでしょうか。
まず、A社のバランスシートの過去10年間分を入手します。それをならべてじっくりとみます。そうすればA社に過去、何が起こったのかが見えてきます。
損益計算書ではないことが重要です。なぜなら、無意識に損益計算書に目が行ってしまいバランスシートを見なくなるからです。
次に、有価証券報告書を過去3年分入手して精査します。これだけでA社に投資はまだできません。A社に出向き、経営陣にヒアリングをし、工場等を見学して初めて投資の是非を検討できる環境が整うことになります。
また、入手可能であればA社の予想バランスシートがあれば最高です。
私が中小企業の社長に、会社の金はもってのほか、個人のお金でも投資はご法度という理由がここにあります。
A社の株を買うために、ここまで調査する時間は社長にはないはずです。
投資は情報戦です。その情報を証券会社から入手しているならば、少し考え直した方がいいかもしれません。
情報は故意につくられることがあるからです。彼らは、顧客が儲かるか損するかは関係がありません。売買数を増やしてもらい、手数料を稼げればいいからです。
株式投資関連の雑誌の情報は、すでに腐った情報です。
金融情報の伝達に関して次のように言われていることがあります。
大手町(東京)は、その日に伝わる、横浜は一週間後、大阪は一ヶ月後、あとは・・・
インターネットの情報は一般情報と言って、みな、知っている情報であり、正直、価値はありません。
日常会話で情報通をアピールしている人にとっては価値があるかもしれませんが、所詮、みんな、簡単に得られる情報なのです。これはインフォメーション情報なのです。
しかし、本当の情報(インテリジェンス情報)というものは、口から口へと伝達するものです。だから、インターネットが発達したから、日本のどこにいても東京と同じということは、間違っているのです。
ですから、このような情報を、経営をしながらもらうことは通常は困難なのです。だから、中小企業の社長は、投資はすべきではありません。
話をバランスシートの残高に戻します。
もともと、残高にあまり変化がないバランスシートに変化があれば、やはり、会社に何かが起きていたと考えることができます。
簿記会計があまりわからない方でも、会社の体質や何をしてきたのかを見ることができます。
資本金に変化があれば、会社経営を取り巻く環境に何か大変なことがあったことを意味しています。
固定資産が増加していれば設備投資をしたことになり、また、固定資産が減少していれば、何らかの理由、例えば、資金不足や借入金の返済等のために固定資産を売却したかもしれません。少しの変化に気がつくものです。
設備投資で倒産することも多いため、固定資産は注視すべき内容です。
この具体的な解説は次回にします。