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最後の巨大マーケット「アクティブシニア」を狙え!
~バリアフリーは間違い?これからは「バリアアリー」だ!~
海外からのインバウンド観光客の"爆買い"も一巡し、
消費のリード役が不在となった今、
日本経済の古くて新しい牽引役として期待が高まっているのが、
65歳~75歳の「アクティブシニア」だ。
人口ピラミッドのボリュームゾーンである団塊世代が、
今や、いわゆる前期高齢者となっている。
しかし、人生100年時代を迎える中、彼らは
従来の高齢者・シニア層・シルバー世代とは異なり、
天に召されるまで元気で若々しく、ピンピンコロリを目指す、
まさにアクティブなシニア世代である。
以下、日本の経済史上、最後の巨大マーケットである
「アクティブシニア」市場攻略の視点を示したい。
●最後の巨大マーケット「アクティブシニア」とは?
「アクティブシニア」とは、一体、どういう人たちなのか?
『一般社団法人日本アクティブシニア協会』のホームページによれば、
「アクティブシニア」の年齢は65歳~75歳で、
既存のシルバーやシニアに対するマイナスイメージを払拭する新しいシニアゾーン
と定義されている。
『日本大百科全書』(コトバンク)には、以下のように紹介されている。
自分なりの価値観をもち、定年退職後にも、趣味やさまざまな活動に意欲的な、元気なシニア層。
特に、2007年(平成19)以降に定年を迎えた団塊の世代をさすことが多い。
団塊の世代は1960年代に青春時代を過ごし、若い時から大量消費文化を牽引してきた。
そのため、流行に敏感で、ライフスタイルにもこだわりをもっている点が特徴とされてきた。
60歳代に達しても従来のような高齢者を対象にした、
温泉旅行といったステレオタイプなレジャーには満足せず、
値が張っても満足のいく旅行プランを設計する。
山登り、コンサート巡り、クルーズなど、そのこだわり方は多彩である。
そこで、旅行業各社はアクティブシニアを対象に
きめ細かい旅行プランを設計する専用デスクなどを用意して、囲い込みを図ろうとしている。
アクティブシニアは消費意欲も旺盛で、高級デジタルカメラ、大型テレビ、SNSなど、
時代の最先端をゆく商品やサービスにも興味をもっている。
1ボックスカーを改造したキャンピングカーや大型のオートバイにも人気が集まっている。
●「アクティブシニア」の中心を成す「団塊世代」とは?
「アクティブシニア」のマーケットを考える前に、まずは、
その中心を成す「団塊世代」とは、どのような世代なのか振り返ってみよう。
「団塊世代」とは、作家の堺屋太一氏が1976年(昭和51年)に発表した
小説『団塊の世代』を語源とし、他の世代よりも人数が多く、
年令別人口分布の中で巨大な団塊(かたまり)となっているため、その名が付けられた。
主に、1947年(昭和22年)から1949年(昭和24年)の3年間を中心とする
その前後の"戦後ベビーブーム世代"を指す。
この3年間の出生数は、約805万7000人。その中でも、特に1949年の出生数は269万7000人で、
2015年の出生数100万8000人と比較すると、約2.7倍にのぼる。
「団塊世代」の青春期の出来事と言えば、高度経済成長期の1964年(昭和39年)には、
東京オリンピック開催に、東海道新幹線開通、1966年(昭和41年)にはビートルズ来日。
そして、1969年(昭和44年)の東大安田講堂事件、翌1970年(昭和45年)の大阪万博。
また、「テレビっ子」「マンガ」「グループサウンズ」「ジーンズ・ミニスカート」
「全共闘」「金の卵・集団就職」「ニューファミリー」など、
彼らのライフスタイルを表す数々の言葉も生まれた。
まさに「団塊世代」の人生は、イコール日本の戦後史そのものだと言える。
●「アクティブシニア」の人口は、どれくらいいるのか?
2017年には、1947年(昭和22年)生まれの人は70歳、
1949年(昭和24年)生まれの人は68歳となる。
この3年間の出生数は約805万7000人なので、65歳から70歳の「アクティブシニア」層は、
年齢だけで考えれば、約1500万人。
その中で、心身の健康を維持し、金銭に比較的余裕のある男女は、
300万人~500万人ほどいると考えられる。
団塊世代の多くが、戦後の高度成長期に、地方から首都圏・中京圏・京阪神など
大都市部に出て来て、郊外に住んだことを考えれば、
その多くは首都圏の1都3県を中心とする大都市郊外に居住していると言えよう。
また、単純比較はできないが、東京都の23区を除いた、いわゆる都下の人口は400万人強だが、
同じくらいの数だと考えられる。
●バリアフリーは間違い?これからは「バリアアリー」だ!
一頃、高齢者向け住宅、介護施設、老人ホーム、まちづくりに関する最重要キーワードとして、
「バリアフリー」がもてはやされた。
もちろん、体に障害を持った人や日常生活が不自由な高齢者にはバリアフリー化は大切だし、
今後も進めて行くべきである。
しかし、健康を維持し、身体機能を回復するためには、一定のバリアこそが必要なのだ。
きんさん・ぎんさんは、100歳になってからも毎日のお散歩が日課だったが、
段差、坂、階段などのバリア(障害)の中で日常的に生活してすることによって、
筋肉や骨も平衡感覚も衰えずに維持できるのだ。
健康寿命とは他人の助けを借りずに自立して生活できる時間を指すが、その逆も真で、
他人の助けを借りずに自立して生活しているから心身の健康を保てるのだ。
高齢者だからと、何のバリアもない空間だけで暮らし、自分では何もしない、
至れり尽くせりの生活こそが毒なのである。
「バリアアリー」施設として注目を集めている、千葉県浦安市の「夢のみずうみ村」には、
日常生活の中で遭遇する可能性のあるバリアが意図的に配置されている。
どこにも手すりがあって段差がないような施設は、高齢者が自ら頑張って、
身体を回復させようとする意欲を奪ってしまう。ここでバリアの克服方法をマスターし、
自宅での日常生活の範囲を広げるのだ。
「できることは自分でやる」がこの施設の方針で、食事の時には、利用者は自分で
ご飯やおかずを盛り付け、運ばなければならない。
車いすの人もスタッフの手を借りながら自分で盛り付ける。
手助けを最小限にすることが、一人一人が本来持っている力を引き出すことにつながるのだ。
つまり、いつまでも元気で若々しい「アクティブシニア」であり続けるためには、
バリアフリーの真逆の「バリアアリー」が必要なのである。
●りゅうじん流「アクティブシニア」7つのキーワード
「アクティブシニア」は、今後、何にお金をかけるのか?
どういった商品やサービスを求めるのか?
以下、りゅうじん流の造語による「アクティブシニア」の7つのキーワードによって、
彼らが求める商品やサービスを読み解こう。
◎「価値組」
幼少期から競争に明け暮れて来た「アクティブシニア」は勝ち組ならぬ「価値組」を目指す。
幸せとは価値観によって異なるもの。
「価値組」とは、自分の価値観に基づいて生きる人たちを指す。
自らの価値観を大切にして生きられる時に、人は幸せを感じられる。
人生行路とは、それを探す旅に違いない。
自己の人生のテーマに沿ったライフワークを死ぬまで追及するのだ。
「価値組」を目指す「アクティブシニア」は、世代の数が多い分、
自らを人と差別化しようとする傾向がある。
サービスについても十把一絡げにされるのを良しとしない。
平均的な基準を杓子定規に押し付けるのではなく、
その人ごとの価値観を尊重することが肝要だ。
また、自らの価値観を長年にわたって磨き上げてきた「価値組」である「アクティブシニア」は
興味を有する分野の商品やサービスに対する目利きであり、求める品質は高い。
価格の高い安いに関係なく、
その値段なりの本物のバリュー(価値)を有する「価値組」でなければならない。
◎「宇治金時族」
「アクティブシニア」の多くは、子どもも巣立ち、住宅ローンもほぼ終わっており、
ある程度の蓄えもある。
つまり、「金」(可処分所得)と「時」(可処分時間)の両方を持つ「金時族」なのだ。
積み重ねてきたキャリアも、気が付けば、かき氷のように溶けてしまうはかないものだと悟る。
人生の酸いも甘いも知り尽くした彼らは、定年後、その氷が溶け切る前に、
人生の苦味の宇治茶と、甘さの金時をかけて味わうのだ。
今までは、お金のある人は時間が無く、時間のある人はお金がないのが常だった。
ところが、その両方を併せ持つ「宇治金時族」は、
じっくりと時間をかけて購入する商品やサービスを選ぶ。
お金はあっても、若い頃のように刹那的・衝動的な消費はしない。
そのため、決して金離れの良い客ではない。
微に入り細に入り説明を求められることもあるが、
忍耐強く、じっくりと時間をかけて説明する必要がある。
自信が無いのに適当に答えたりせず、日々商品知識を勉強しつつ、
時には顧客から学ぶ謙虚な姿勢が求められる。
「宇治金時族」の彼らは、そのやりとりの過程の体験そのものを購入していると考えるべきだ。
◎「新G・N・P」
「アクティブシニア」は、受験も会社に入ってからも常に競争にさらされ、
偏差値や売上げなど数字ばかりを追い求めてきた。
彼らが生きて来た戦後の日本全体が数字が絶対の"GNP至上主義"であったのだ。
そんな彼らも数字から解放され、「真の新たなG・N・P」を目指す年齢に達している。
「G」は元気のG、「N」は長生きのN、「P」はポックリのP。
つまり、健康に長生きをして人に迷惑をかけず・かけられず、
天に召されるまで生きるのが彼らの理想となる。
人生も後半戦に差し掛かった「アクティブシニア」にとって、
健康が最大の関心事であることは言うまでもない。
心身の健康と美容に良いならば、何でも試してみようという人も少なくない。
スローライフ、LOHAS、ウエルネス、アンチエイジング(抗加齢)といったワードが、
続々と紹介されては次々に消費されて来た。
たしかに「健康に良い」は殺し文句である。
しかし、ここまで玉石混交の健康関連商品や情報が氾濫してくると、
何が正しいのかわからない。
情報化の進展によって、一気に持て囃されたと思っても、虚偽の情報があれば
一瞬にして人気は地に落ちてしまう。
品質の管理を徹底し、口コミによって地道に広げて行くのが、遠そうに見えて一番の近道である。
◎「自己規制緩和世代」
学生時代には全共闘運動に明け暮れた「アクティブシニア」も、
卒業後は一転してモーレツ社員として社畜となり懸命に働いた。
家庭ではマイホームパパとなり、家族の生活を支えた。
ずっと自己規制してきたこともたくさんある。
それが、定年退職と子どもの巣立ちで、会社と家庭のつっかえ棒がなくなり、
自己規制から解放される。そして、これからが人生の本番だと夢の実現に向かっている。
誰しも子どもの頃からや若い時分からの夢がある。
定年まで忙殺される中で忘れていたそんな夢の実現こそが、彼らの自己実現であり、
マーケットチャンスと成り得る。
童心に帰り、オーディオ、カメラ、天体観測、プラモデル、ジオラマ、鉄道模型、
切手や古銭の収集などなど、昔日の趣味に没頭する「自己規制緩和世代」も多い。
オタクという言葉が生まれる以前の「マニア」と呼ばれた彼らを魅き付けるには、
まさにマニアックな目に適う品質と懇切丁寧なサービスが求められる。
◎「不良長寿」
学生時代、ビートルズ、グループサウンズ、フォークと、
ヒゲを伸ばしてギターをかき鳴らしていた彼らは、元祖不良とも言える。
「平凡パンチ」を片手に、VANを着て、アイビールックを気取ったりもした。
自ら「ボク、ちょっと変わってるからね」と言い、アウトロー的生き方に憧れている人も多い。
定年後にバンドやバイクを再び始める永遠の青年が増えている。
言わば、不老長寿ならぬ「不良長寿」である。
「不良長寿」を目指す「アクティブシニア」は、男も女も、
従来の高齢者という枠組みには収まり切らない。
年寄りは年寄りらしくしなけれならないなどと考えてはいない。
一頃、シルバーシートをはじめ高齢者を区別するサービスが増えたが、
彼らの多くは老人扱いを受けたいとは思っていない。
いくつになっても若い頃と同じように応対すべきである。
生涯現役の彼らは、往年と変わらぬヴィンテージの品質とサービスでなければ納得しない。
◎「三種の神戯3S」
「アクティブシニア」が求めるのは、
昔、「3C」(三種の神器:カー・クーラー・カラーテレビ)、
今、「3S」だ。国内外の「サイトシーイング」(観光)のS。
定年後にやりたいことの第1位は男女共に旅行である。
そして「スポーツ」のS。
1964年(昭和35年)の東京オリンピックに心踊らせ、野球・テニス・ゴルフなどの普及とともに
齢を重ねた彼らは生涯アスリートである。
2020年の東京オリンピックを観るまでは死ねない。
そして「スタディ」のS。脳を鍛えるゲームや本が大ヒットしているが、
六三三制で育った彼らは生涯学習マニアでもある。
まさに「三種の神戯3S」は「体験消費」そのものである。
「サイトシーイング」については、最初はリーズナブルなツアーで一通り回った上で、
テーマを決めて掘り下げて行く人が多い。
社寺巡り、離島めぐり、酒蔵巡り、エコツーリズムなど様々なテーマを探求するのだ。
また、「スタディ」とも関連するが、戦国武将の足跡巡りや幕末の志士ゆかりの地巡りといった
歴史や文化を探訪する旅、あるいは企業の生産工場を見学する産業観光も人気を呼んでいる。
「3S」のいずれも、サービスの質を高めるために、
現場で彼らのケアができる地域のボランティア・ガイドやインストラクターの育成も大切である。
◎「3バン」
人口減少時代における「アクティブシニア」は、
彼らの本宅や二地域居住の別宅を全国の自治体が争奪する地域間競争のスタートに他ならない。
これから「アクティブシニア」が終(つい)の棲み家を構える町や村には「3バン」が求められる。
「3バン」とは、地盤(防災)・交番(防犯)・オジンオバン(医療)だ。
田舎でスローライフをしたくとも、この3つがなければ生きてはいけない。
ハード・ソフト・ハートのそろった安全・安心の町づくりが彼らを魅き付ける。
「東日本大震災」「熊本地震」といった災害が続き、
従来の常識では理解できない殺人や傷害事件も頻発している。
戦後、今ほど防災・防犯の意識が高まっている時代はない。
「アクティブシニア」の多くにとっても、防災・防犯が最大の関心事であることは言うまでもない。
街や住宅はもとより商業施設や商店街に至るまで、
安全・安心を常に確保できる空間作りと日々の訓練が欠かせない。
●「アクティブシニア」は日本の元気の素
日本は先進国の中で最初に、高齢化社会を超えた「高齢社会」に突入しつつある。
しかし、それはマイナスばかりではなく、
逆にこれからの新たな社会のモデルを創り得るわけで、
大きなチャンスだとも考えられる。
「アクティブシニア」の中心を成す団塊世代は、常に日本の元気そのものだった。
今後も20年近くは日本の人口の大部分を占める彼らを、
これからも日本の元気の素として行かねばならない。
世界中の良いものを知り尽くした「アクティブシニア」が納得するレベルにまで
中身と質を磨いて行くことこそが、
今後、日本の将来を輝かせられるかどうかのカギだと言えよう。
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