中小企業の経営者に、社長個人と会社のバランスシートを合算する〈連結バランスシート経営〉を、日本で最初に提案された異色の公認会計士・海生(かいお)先生に、その目的とメリット、さらに今後の経営のあり方を伺った。
■海生裕明(かいお ひろあき)氏
「会社のおカネ」と「社長個人のおカネ」を合算しておカネの損得を考えることを提唱する、オーナー経営に精通した公認会計士。学習院大学経済学部卒業後、数種の仕事を経て、経営コンサルティング会社を設立。2006年、証券会社において株式公開引受及び投資銀行担当役員を経て、現在、中小企業等の経営を支援するため、電気代を実質ゼロ円にすべく、水素エンジン発電を開発中。1958年生まれ。
著書に『公私混合 経営マニュアル』『連結バランスシート経営で会社を強くする』(共に日本経営合理化協会刊)など多数ある。
Q:会社と社長個人のバランスシートを合算する経営を提案されておりますが、その目的は何でしょうか?
オーナー会社が多い中小企業の場合、会社のバランスシートだけでは本当の実態がわかりません。
会社と社長個人のバランスシートを合算した連結バランスシートこそ、会社の本当の会計情報なのです。
その証拠に、オーナー会社の場合、金融機関や投資家が一番見たい会計情報とは何かといえば、この会社と社長個人のバランスシートを合算した連結バランスシートなのです。
そのことがわかったときに、わたしは連結バランスシートをもっと経営に生かすべきだと考えたのです。
実は、連結バランスシートは事業承継や相続の時に必ず必要になる、とても重要なものです。
さきほどお話ししたとおり、この連結バランスシートによって、会社の本当の実態がわかります。本当の実態がわかれば、今後どういう手を打てば良いかがわかります。それによって経営が良い方向へ変わっていきます。
次に、良い公私混同と悪い公私混同の区別がはっきりします。会社が良くなる公私混同であるならば、大いにやるべきでしょう。
経営はきれい事では済まされません。中小企業の社長は誰も守ってくれない。自分で自分自身と会社を守るしかないのです。
そのほか、後継者が会計に強くなるなど、合算するメリットは多くあります。
Q:そもそもバランスシートを重要視しない経営者が多いですが、そのような考え方の経営者に対して、どのような話をされていますか?
一般に、損益計算書は一年間の会社の収益と費用の状態を表していますが、それはすでに終わった過去の会計情報です。ですから、いくら損益計算書を見ても、今後どういう経営をすればいいかがわかりません。
一方、バランスシート(貸借対照表/BS)は、創業以来の積み重ねられた情報が網羅されています。言い換えれば、バランスシートには会社の問題や体質が表れていて、今後、会社を良くするために何をしなければならないかがわかるのです。
本来、会計情報とはこれからの経営に役立つ情報であるべきです。
だから、われわれ会計や投資のプロが、会社の良し悪しを判断するときは、損益計算書を見ないで、バランスシートを重要視するのです。
社長も継続的に良い経営をやろうと思えば、バランスシートを重要視する経営をしなければならないのです。
Q:会計士の立場から、今後の企業経営で、大切なポイントを3つあげてください。
最初に大切な3つのポイントをあげましょう。
1つめは、社長は月次のBS残高推移表を見て、今後の経営判断をすること。
2つめは、本業に関係のない、不要な資産をもたないで、できるだけバランスシートのスリム化をはかること。
3つめは、1年後、2年後、3年後の目標バランスシートをもって経営すること。以上、3つです。
まず1つめの「月次BS残高推移表」とは、3つめにあげた「目標バランスシート」に近づいているかどうかをチェックするためのものです。
月次のBS残高推移表を見ながら、目標を達成するための経営の舵取りをするのです。そのためには月末から5日以内で試算表をつくる必要があります。 よく経理担当者が、請求書が揃わないので、試算表ができないと言います。詳しいことは本の中でお話ししましたが、社長は担当者のそんな言い訳を絶対に認めてはいけません。やれば簡単にできるようになります。
2つめの、バランスシートのスリム化はいわゆる「もたない経営」をするということです。会社と社長個人のバランスシートを合算した連結バランスシートを見れば、なにが不要かがわかります。筋肉質の財務基盤にしておけば、少々の金融恐慌が来ても、会社がつぶれることはありません。
3つめは、目標とするバランスシートをもって経営することです。多くの会社は、売上利益の計画を立てますが、売上や利益が増えても、バランスシートが悪化することもあります。
できれば目標とするバランスシートの計画もつくってほしいと思います。 要するに、企業経営は、BSで始まり、BSで終わるということです。
(聞き手/岡田万里)
「愛読者通信」(2013年4月)掲載
【経営合理化協会・関連YouTube動画】
海生裕明氏 『公私混合経営マニュアル』
著者が新刊について話しているYouTube ↓
【蓄財】会社にも社長にもおカネが残る「公私混合」経営マニュアル
https://youtu.be/7eiqZEw9ry0