初任給高騰や最低賃金引上げに対処するための賃金制度
その場しのぎの対応ではいけない
2024年春闘における賃上げ率は5.10%(連合7月3日最終集計)、中小企業(300人未満)に限定しても4.45%に達し、昨年を上回る大幅な上昇となりました。深刻な人手不足を背景に、採用初任給も高騰しています。すでに2024年最低賃金の検討も始まり、昨年を上回る前年比プラス50円の可否が争点になるとの見方も出ています。
人材の獲得・定着のためには、今後も大幅な賃上げ、採用初任給の上昇、最低賃金の引き上げ等の変化に付いていかなければなりません。最低賃金1,500円時代の到来につ いては、政労使それぞれの立場から言及されていますが、時給1,500円は月給(月168時間労働の場合)に換算して252,000円。全国平均1,004円の最低賃金を、現在の大手企業の大卒初任給を超える水準にまで、あと10年程度で引き揚げようという大きな流れの中に私たちはいるのです。
ただ、このような大きな変化に対して、その時々で急場しのぎの対応をしているようでは、社員の将来不安を払拭することはできませんし、安定した採用や定着も覚束ないことでしょう。従業員の中核である正社員に対する賃金制度が確立され、正しく運用されていてこそ、柔軟かつ機動的な対応も可能となるのです。
賃金を決定する2大要素
正しい賃金制度の構築に向けて、まず賃金決定の最も基本的な要素について考えてみましょう。
従業員の賃金決定については、社員という“人”が、会社という職場で“仕事”をすることで、その労務の対価としての“賃金”が発生します。この関係自体は、時代や賃金制度の違いによっても変わることはありません。
つまり、賃金決定の基本要素は、大きく分ければ“人”の要素と“仕事”の要素から成り立っていて、この2要素をどう位置付けるかによって、賃金制度の性格が決まってくるのです。
“人”というと、まず年齢、勤続、学歴などの属人要素が思い浮かびますが、それ自体は生産性に直結しない要素です。個人の職務遂行能力も“人”に属する要素です。職務遂行能力は、常に「仕事上で発揮された仕事力=発揮能力」として客観的に捉えられるのならいいのですが、どうしても積極性、協調性、責任感といった抽象的な能力適性判断を伴いがちだという側面を併せ持っているので注意が必要です。
一方の“仕事”要素は、「仕事の種類」、「仕事の量」、「仕事の質」に分けて整理することができます。
「仕事の種類」とは職種別の賃金決定のことですが、わが国では職種別の賃金相場が形成されているとは言えませんので、客観的な給与決定基準とはなり得ません。
次の「仕事の量」には、仕事の出来高で決める出来高給や、仕事の時間単価が決まっており労働時間の量で給与が決まる時間給による給与決定がこれに当たります。職務範囲が限定されるパート・アルバイトの賃金決定に提要されていますが、定年までの長期雇用とその間の能力開発を前提とした正社員の賃金決定方式として相応しいものとは言えません。
最後の「仕事の質」が、正社員の賃金決定の大きな手掛かりとなります。仕事の質とは、組織の中で担当する仕事の難易度や責任の重さの度合いのことであり、「役割責任」と言い換えることができます。仕事の間口の広さや裁量権といった、職制上の責任範囲を根拠として賃金決定を行うもので、社員にとっても納得感をもって受け入れられる基準です。これこそが賃金決定の基軸としようというのが「責任等級制」賃金制度です。
繰り返しとなりますが、賃金を決定するのは結局、“人”と“仕事”の要素しかありません。変化の時代に柔軟に対応するには、まずは「仕事の質」、すなわち担当職務における職制上の責任レベルに着目し、年齢や勤続といった“人”の要素を加味しつつも、“仕事”に基軸を置いた等級制度を確立、堅固な土台を作っておくことが重要なのです。
次回は、職制上の責任範囲の違いによって区分される責任等級制度と基本給の決め方との関係について取りあげることとしましょう。(続く)