人生百年時代。いつまでも脳の健康を保つためにはどうすればいいのか。37万部を超えるべストセラー「脳の強化書」著者 加藤俊徳氏に脳の鍛え方と守り方、講演音声の脳への活用法を前号につづきお聞きしました。
加藤俊徳氏(かとう としのり)
株式会社「脳の学校」代表。加藤プラチナクリニック院長。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳の新しい見方「脳番地」論を提唱。脳番地を用いた脳トレーニング法を提唱した著書「脳の強化書」(あさ出版)シリーズは、37万部を越えるベストセラーになる。経営コラム「リーダー脳の鍛え方」も好評。
同じ講話を繰り返し聞く効果
Q:お客様から、いい講話だったので繰り返し聞いたというお声もいただきます。先ほどの質問とは逆に、同じ講話CDを繰り返し聞くというのはいかがでしょうか。
僕も結構、繰り返し聞くタイプです。これは音楽もそうだし、講演のリズムもそうなんです。脳は1度目と2度目で聞いた感じは違ってくるんですよね。どうしてかと言いますと、脳には右脳と左脳があるように、脳の聞く力の入り口は右脳と左脳の両方の聴覚系脳番地です。特に、右脳は音に対する注意力を高める力があるんですよね。ですので、何回も聞いているとどんどん聞き方が変わってくるということです。だから、講話の内容の隅々まで注意が行くようになる。1回聞いただけで、「わかった」と思うのは、実は脳の理解系の脳番地がどういう内容だったとわかっただけです。例えば、講話を聞いて、どうしてそのように言ったのだろうとか、どうしてそういう言い回しになったのだろうというような理解できる余裕はないですよね。繰り返し聞くことによって、注意が違う方向に向いていくのですよ。
一度、聞いただけでは脳番地の2個くらいしか刺激されなかったのが繰り返し繰り返し聞いていると、もっと広い脳の番地を使って聞けるようになるということです。
例えば、自分が「この人にように話したいな」と思ったら、その人の会話のリズムをしっかり聞くようにした方がいい。この人と同じような論理性で、わかりやすく話したいと思ったら、そういう方の講話を選んで、講演内容を繰り返し聞く。話が頭に残りやすいという人は論法がクリアなんですね。単純に聞いている、知識として聞くだけではなくて、その人の論法の筋道というのも繰り返し聞いていると見えてきます。私は繰り返し聞くことはとても大事だと思っています。
毎朝、今日は何を聴くかを選ぼう
Q:講話CDを聞く場所や環境についてはどう思いますか
『脳にいい!通勤電車の乗り方』(交通新聞社新書)という本にも書いているのですが、同じ本を僕は読み続けるのがすごく苦手なんです。そういう時に移動時間はすごい便利なんですよ。移動しているから途中で止めてもいい。移動中の合間にちょこちょこ読みをするんですよね。途切れ読みをすると、それが1回1回区切られるから読んだところをもう一度、頭の中で反すうして、味わう時間があるのです。そうすると、自分だったらこういう事は考えないなとか、面白いなとか。乗り換えの前後で読む、乗り換え読みすると今まで読めていなかった本を読めたり、より親近感のある読み方にもなります。
講話CDも同じです。聞き方は色々ありますが、私は途切れてもいいんだというふうに思って聞いた方が、忙しい社長さんはいいんじゃないかと思います。不思議なんですが、時間がある時の方が思ったように聞けなかったり、新しい勉強もできない。時間がない時の方が意図的にその時間にやろうと思うからすごくいいのです。
私が医者になった時のことです。先輩から「1日1個、論文を読めばいい。そうすると、だんだんものが見えてくる」と言われました。それを医者になりたての頃からずっと続けていました。朝、出掛ける時に、今日はどの論文を読もうかと選ぶようになるのです。講話CDも同じ。出掛ける前に一つ聞きたいものを選ぶと選ぶ力が養われる。そうすると、情報の選択力が高まってきます。
やっぱり、経営者が研ぎ澄まされなくてはならないのは「情報の選択力」だと思います。もちろん、ここまで成功し続けたからには情報の選択力はあるのですけど。でも経営というのは長く続くものだから情報の選択力を衰えさせてはいけないんです。むしろ、成長させる。磨きもかけていかないといけません。ですので、いつもいくつか聞きたい講話を手元に揃えておいて、今日はこれを聞こうと、選ぶという行為が僕はとてもいいんじゃないかと思います。
そうすると、自分のスケジュールに予定して、これを聞くから飲み会をちょっと短くしようとか、色々と自分の限られた時間をより主体的に使えるようになります。そうしないと、経営者は秘書に、どんどん自分の予定を入れられて、やらせられる思考になる。そうすると積極経営になりにくくなります。自分の私生活の中での学びから積極経営の姿勢を貫くということが大事なのです。
Q:新しい発想をするためにはどのような行動をするべきでしょうか
私たちが新しい発想を生むためには、ほかの人と違った行動、自分の今までとは違った新しいチャレンジ、行動、学び、ということが必要になります。新しい発想するためには、時間と場所、そして出会う人を変えることです。そして、今まで自分が思っていたカテゴリーとは違うカテゴリーに移動してみる。それを加えてみるということです。自分でそれができなければ、そのようなカテゴリーを持っている人の意見を聞いて、必要ならその人の影響を受けるということです。それが次の新しい発想を生み、新しい行動につながっていきます。
柔軟に対応できる自分をつくる
Q:聞きながら何かをするという「ながら」が良いと聞きました。脳の健康に良い行動はありますか?
健康が二の次の人が多いので、講話を聞きながら認知症を食い止めるエクササイズが良いと思います。単純に、聞きながら歩く、柔軟体操をしながら聞くのもいい、マインドフルネスで呼吸法をやる時でも講話を利用して呼吸法をやるとか。無の状態になるという事がもったいないと感じている人が多いと思うので、そういう社長は講話とマインドフルネス、講話と歩く、講話と柔軟体操など、体を目覚めさせながら聞くといい。特に、運動系と聴覚系は相性がいいんですよね。
逆に、そういうように工夫をすることが脳をいつも柔軟にします。会社経営の不測の事態に対しても柔軟に対応できる自分自身というのを磨けるのではないかと思います。