『#剃るに自由を』プロジェクト(貝印)
これは、処理されていない腋毛に思わず目を奪われるノースリーブの女性のグラフィックと、「ムダかどうかは、自分で決める。」というキャッチコピーが話題になった貝印の企業広告です。広告のモデルは実在の人間ではなく、CGで作られたバーチャルヒューマンの「MEME(メメ)」。
「ムダ毛を気にしない女の子もカッコいいし、ツルツルな男の子もステキだと思う。ファッションも生き方も好きに選べる私たちは、毛の剃り方だってもっと自由でいい。」というメッセージが掲げられています。
貝印が全国15~39歳の男女600人にアンケートをとったところ、「ファッションや髪型のように、剃ること(ひげ・体毛処理など)は自分自身で自由に決めて良いと思うか?」という問いに、Yesと答えた人が90.2%だったといいます。
「女性のムダ毛は剃るべきである」とか「男性は体毛を処理しないものだ」のような、これまでの「常識」への違和感が顕著にあらわれており、「剃る・剃らないの選択は、自分で自由に決められていいんじゃない?」と思い始めているターゲットのインサイト(本質的な悩みや欲求)を上手く突いたメッセージが共感を呼びました。
さらに貝印は、毛に悩む小中学生に向けて、はじめてのカミソリを楽しく使えるように、正しい剃り方や毛の知識をまとめた本『FIRST SHAVE BOOK™(ファーストシェイブブック™)』を、オリジナルデザインの紙カミソリ®付きでサンプリング。
「#剃るに自由を」を発表した直後は、貝印の問い合わせ窓口へ直接、「勇気づけられました」「『剃るも剃らないも個人の自由だ』というメッセージを打ち出すのはとても意義のあることだと思います。」などの声が届けられるなど、大きな反響があったそうです。
正しい知識を持ってもらった上で、剃る・剃らないの自由な選択ができる世の中をつくろうという、消費者の気持ちに寄り添った貝印のチャレンジへも共感が深まるなど、多面的な活動を通じて紙カミソリ®は注目の存在となっています。
★終わりに
ラベルレスペットボトル飲料と貝印の『紙カミソリ®』というヒット商品に見られる、彼女たちに刺さる商品のポイントは、本質的にサステナブル消費であるという納得感があることに加えて以下の要素です。
✔便利なものであること
✔「わくわくする」「欲しい!」という感情が先にわくこと
✔インサイトを掴んだメッセージが含まれていること
ラベルレスペットボトルはとても便利ですし、最新技術を使ったラベルレスだからこその新たなボトルデザインにワクワクします。『紙カミソリ®』も利便性の高さに加えて、カミソリが紙になった革新性自体にワクワクする、見た目のポップさにもワクワクするということで思わず手に取りたくなる。剃る・剃らないの自由を訴えるメッセージには心を掴まれます。
こんなことを言っている人もいました。
「GUのペットボトルを使ったTシャツやブラウスが良い。価格も安くて、素材もなかなか良くて人気がある(20代後半/徳島県)」
つまり「使いたい!」「欲しい!」「共感できる」という自然な感情が動かされて商品に手が伸びるということがまず先にあって、しかもそれがサステナブルな商品であるという順番で届くものなら、「押し付け」を感じないし、疲れない。そういうものが欲しいというのが、彼女たちのインサイトです。
押し付けではなく前向きに購入できるものなら、多くの人を巻き込む求心力を持ってみんなが取り組めるサステナブル消費につながっていきそうです。「北風と太陽」の逸話がありますが、「太陽」のようなアプローチですよね。
新しい時代のターゲットのインサイト(本質的悩みや欲求)を抽出し、それに応えられる商品をつくれると、ヒットを生み出せます。ぜひ、この最新のインサイトを活かしてみてください!
阿佐見綾香(あさみあやか)
電通第2統合ソリュ―ション局・戦略プランナー。企業や商品・サービスのマーケティングや商品開発、リサーチ、企画プランニング、コミュニケーション戦略立案などを担当。GIRL’S GOOD LAB(旧・電通ギャルラボ)研究員として、時代とともに変化する女性インサイトと消費トレンドを研究。著書に『電通現役戦略プランナーの ヒットをつくる調べ方の教科書 あなたの商品がもっと売れるマーケティングリサーチ術』(PHP研究所)。