会社と個人のバランスはどう図っていけばいいのでしょうか。会社が儲かったからといって社長はすぐに贅沢をしてもいいものなのでしょうか。
オーナー社長と会社は一心同体であるということは良く言われることです。しかし、一心同体を表す指標がこれまでなかったのです。この指標こそが、オーナー社長が作成すべき『連結バランスシート』なのです。
◆個人と会社のどちらを豊かにすべきか
結論からお話します。
まず、社長個人より会社にお金をつぎ込み、先に会社を豊かにすべきです。
そして会社が豊かになれば、その後は、社長個人と会社のどちらかに偏ることなく、個人と会社のバランスを図っていくべきです。
社長も人間です。家庭もあることでしょう。家族の幸せのために会社を創業した人もいることでしょう。
ですから、社長も生活のためのお金は必要です。社長は、会社のトップであると同時に、一個人なのです。家族の生活も守らなければいけません。
一方、会社は、社長一人では運営できません。最初は、人数は少ないにしても、やはり社員は必要です。
ですから、社長は、家族と会社の両方のお金の心配をしなければならなくなります。
会社を犠牲にして個人の蓄財や贅沢をする社長は失格です。逆に、個人を犠牲にして会社にすべてをささげ、とにかく会社を豊かにする社長もいますが、個人の蓄財がなくては、会社が傾いたとき、一体、誰が助けるのでしょうか。
これがすなわち、『社長個人と会社のバランスの取り方』なのです。
ただ、社長個人と会社のバランスを図っていくことは分かっていても、どのようにしてバランスを取ればいいのか、残念ながらその指標がありませんでした。その指標こそ、『連結バランスシート』なのです。
◆社長と会社間の資金移動は簡単に否定できない
社長個人と会社のバランスの取り方を考えるとき、公私混同の話を忘れることは片手落ちになってしまいます。
世の中の常識では、公私混同はご法度です。しかし、オーナー会社は、社長と会社は一心同体です。社長からすれば、会社は自分の分身です。ふだんは当然のことなので、特別、一心同体だと感じることはありませんが、会社の資金繰りが厳しくなったとき実感します。また、中小企業が上場をする際、社長が自分の会社ではなくなると感じた時、上場を躊躇することもあります。一心同体ではなくなってしまうためです。
上場により、自分の会社でなくなる寂しさはおそらく経験した人でなければ分からないでしょう。
ところで、会社を大事にする社長は、会社を食い物にする公私混同はしません。会社を食い物にする公私混同とは、会計的に言いますと費用となる支出です。例えば、社長の個人的な支出を会社にしてもらうことです。また、どのように処理していいのか分からない為、仮払金として処理することが多い支出です。この手の公私混同は、会社の基板を破壊する行為なのでご法度です。
社長の仕事は本当に数多くあります。その中でも特に資金調達は重要な仕事です。中小企業の社長は常にお金のことが心配なのです。
中には、会社設立前から、資金関係で、叩けばほこりが出る社長も少なくありません。それを引きずる形で会社を設立しますと、すでに社長個人に借入れ等の資金問題が発生している為、設立後、会社の資金を社長に流さざるを得ないこともあります。
理由はともかく、社長個人と会社との間では資金移動はよく見られることです。これは公私混同だからストップすべきという人もいますが現実的ではありません。
確かに度が過ぎた資金移動は問題ですが、社長と会社間の資金移動を否定してしまえば、中小企業は経営していけない時期があるものです。
ぎりぎりの資金で会社を設立した社長は、家族の生活も気になり、会社の資金残高も気になると思いますが、創業時はがむしゃらに働くため、幸か不幸か、あまり悩む時間はあまりありません。
言葉は悪いですが、何が何でも会社にお金を入れることで頭が一杯な時期、それが創業期です。自分の食事は後回し。しかし、家族を犠牲には出来ない。家族の反対を押し切って会社を設立した社長であればなおさらでしょう。
まじめな社長であればあるほど、何とかして、家庭にお金を運んでくるものです。しかし、創業時は、会社からはお金を引っ張ることが出来ない為、友人・知人などの第三者から小額の借金を繰り返し、それでも足りない場合は消費者金融などからの借入れをする人も少なくありません。
このように、創業期には社長個人にも借金が重くのしかかってくることがあります。
それでも、家族には安心させたい一心で、順調に行っていると思わせるためにお金を家にはちゃんと運びます。本当に会社が順調に行けば、まだそれでも持つのでしょうが、会社の資金繰りが悪くなっていきますと、金銭的以上に精神的に厳しくなります。
創業後、順風満帆だった会社も、突然、おかしくなることがあります。原因は様々ですが、共通点は、会社の資金繰りの悪化です。
その時、社長個人に蓄財がなければ、そして、金融機関からの借入れが出来なければ、社長個人も会社もアウトになります。
これは、社長個人と会社のバランスを取らなかった、つまり、社長の蓄財を考えなかった結果になります。いざというとき、社長にも蓄財がなければ、会社は倒産してしまうのです。それが中小企業です。
このようなことから、社長と会社の資金の行き来は、やってもいい公私混同と考えるのですが、確かに度が過ぎた資金移動は問題です。この資金移動にも、歯止めとなる指標が必要になります。
適度な資金移動は『連結バランスシート』で判断できますが、度を越した資金移動は、『合計試算表』で確認する必要があります。この点については後でお話します。
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