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人間学・古典

第一話「不況は会社守成の好機」

中国哲学に学ぶ 不況は会社守成の好機

※本コラムは2000年代に井原隆一氏が書き下ろした「不況は会社守成の好機」全41話のコラムを再連載するものです。




 菜根譚に

 “逆境の中におれば、周身、皆鍼(しん)薬石にして、節を砥ぎ 行をみがきて、しかも覚らず。
順境の内におれば、満前尽く戈矛(かぼう)に膏を銷(と)かし骨を靡(び)して、しかも知らず。

(逆境にいると身辺すべてが鍼や良薬となり、節操を高め、行いを砥ぎ、真剣にことに当たっているが、自分ではそれを悟っていない。順調であるときは周辺すべてが刀や矛のようで、体が油抜きになり、骨抜きにされても自分ではそれに気付いていない)

 この戒めは現代の会社経営にも大いに役立つ。だいたい企業の健康長寿の害は好況時に発している。好況という時の味方を己の実力と信じているあたり が行詰りの出発点となる。この誤りを反省し、その挽回に努めるべき好機が、 逆境の時といいたいのである。

 好況時には見えない、気付かないことにも心付くことになるからである。ある経営者は“逆境を切り開き、これを次の飛躍の踏み台にすることのできる者が真の経営者である”と言った人があるが名言である。

 次に、好況時には重荷と感じなかった現在の重荷、たとえば累積赤字、借金 過多、役職員の志気など会社の健康長寿を妨げることの排除である。この際、景気回復すれば、そんなことは解消するなどという夢を抱きなさるな。この理屈を尺取虫に聞いてもらいたいと思う。“いま俺が屈身するのは前に進むためなんだ”と答えるだろう。

 即ち不況はチャンスと託したければ、会社がいずれか来るはずの好況時に 満帆の船出をするためであり、好況時の過ちをいまの不況時に改めないことは 思い錨を降ろしたまま出航するようなもの好況の波に乗ることはできないだろう。

※一部旧字を現代漢字に変更させていただいております。

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