経営の実務で、決断力ほど体得しづらいものはない。特に二代目や後継社長は、そうである。
創業社長は、もともと後ろに誰もいないから決めざるを得ないし、多くの場合、カネの臭いには人一倍敏感だし、修羅場の経験もあり、元は裸一貫との覚悟もある。
だから「GO」にしても「STOP」、ましてや「CUT」「撤退」が速い。
もちろん熟慮して、何日も何日も考え抜いた末の決断である。しかし、社内で迷っている姿をあまり見せないので「スパッと決断」したように思えるが、決してそんなことはない。
正解は誰にもわからないし、結果を社長が100%受け止めるしかない。経営で「~れば」「~たら」はないし、責任転嫁をすれば社員は誰もついていかない。
富山のM会長・社長の決断力は凄い。
超大手メーカーが主力取引先で、70億近くまで一代で業績を伸ばし、後任のG社長に経営を託し、本人は会長職として少し距離をおいて診ていた。
経営は順調であったが大手メーカーの中国進出が決定し、相当部分の仕事がなくなってしまった。G社長も誠実で努力家であり、八方手を尽くしたが抜本的な打開策がない。当然、赤字転落である。
静観していたM会長が、急遽、社長に返り咲き、トップ営業を始めるとともに、全社の約40%にあたる大リストラを断行し窮地を脱した。3年前の話である。
今は、年商40億、経常7~8%と高収益になっている。
また、首都圏で15営業拠点を展開しているT社長の決断も速い。
支店長、所長候補を教育し辞令を渡すが、全員順調に伸びていくかといえば、そうはいかない。社長自らマンツーマンに近い形でフォローし本人の育成に時間とエネルギーを注ぐが、将来的に厳しいと見るや、人事異動を発令する。
T社長に伺うと「もう少し待ってみて、、、」「そのうち彼も頑張って成果を、、、」と、結局は先送りをすると、一営業所、支店がだめになるだけでなく、他店にも悪影響が出始めると。
同社は業界平均に比べ利益率も1.4倍近く高く、この時期でも決算賞与を支給するほど好調が続いている。
いづれの社長も仕事には厳しいが暖かい人柄である。ただし、「こと、赤字を流す」に関しては鬼のように恐い。
小さな赤字が、蟻の一穴となり、放っておけば全員の不幸になることを過去の体験から知っているからだ。
社長なら誰でも気がついているし、言えば「やらなければいけないこと」を、ほとんど知っている。理解もしている。腹では決めてもいる。しかし、徹底してやり切っていない。
ということは「決断力=徹底実行力」ということになるし、日頃から状況、環境の変化に対して「何を決め、どう実行したか」を見極め、結果を冷静に振り返ることが、決断力の養成の遠回りだが一番の近道になる。
今回の世界金融恐慌は、相当深刻だし、実態経済への影響もかなり長引きそうである。出血多量となる可能性の「赤字先送り」は絶対避けなければならない。それも一刻も早く。
モノを決めないで「現場任せ」にすることが一番悪い。間違った決断なら結果を見て、社員に謝り、修正すれば何とかなる。
多くの意見を聞かせ、考えさせ、モノを決めさせよう。いつまでも創業者が決めていると大事なときにモノが決めれなくなってしまう。