以前、ある地方都市に講演で行ったときのこと。
250人ほどの聴衆に、「人生や仕事には、目標設定が大切だ」
というような話をしたのだが、
講演後、30歳前後のAさんが私の控室を訪ねてきて、
「ご相談があります」と、緊張を隠せない顔でいう。
話しを聞くと、Aさんには大きな夢があるという。
水球のプールをつくることだ。
Aさんは地方公務員としての仕事のかたわら、水球のコーチとして、
若手の育成や指導に当たっている。
だが、彼の地元には水球の設備を完備したプールが無い。そこで、将来は、
自力で水球のプールをつくり、水球愛好家を増やしたいのだという。
「相当のお金がかかるでしょう?」
と尋ねると、Aさんは、
「介護事業を立ち上げ、お金をつくりたいと思っています。
私のこうした考え方について、どうお考えでしょうか?」
とまっすぐな視線を私に向けた。
私はこのような青年の出現に大いに喜び、一方では、落胆していた。
好きな水球の普及のために、私財を投じて水球プールをつくりたいという
目標をもつところまでは大いによい。
だが、その先が、あまりにも漠然としている。
介護事業と口にしたが、その知識や経験はない。
少子高齢化時代が進むから、老人事業や介護事業などがよいのではないか
と思っているにすぎないと見受けられた。
だが、こうして、講師を務めた私のところに飛び込んでくる勇気は大いに買いたい。
人は誰でも、頼りにされると嬉しいものなのだ。
私はAさんに、
「具体的なビジネスプランを来月末までに立てて、送ってくださいよ。
それを見て、できるだけ相談にのりましょう」
と約束をしてしまった。
一面識もなかったにもかかわらず、アドバイスをしたくなったのである。
今、そのプランの到着を、楽しみに待っているところだ。
この例だけではない。多くの部下に接してきた経験からいえば、
上司は、勝手にコトを進める部下より、
なにかと相談をもちかけてくる部下の方に、どうしても情が移ってしまうものだ。
頼られて嬉しくない上司・先輩はいない、と覚えておこう。