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マネジメント

第187回『インセンティブの本質を見失ってはいけない』

社長の右腕をつくる 人と組織を動かす

『忘れられない言葉』というものがある。
 
誰かが言った言葉が強烈なインパクトで心を打ち一生胸に焼き付くという、
稀ではあるが人生の中では何度か起こりえるという《事件》である。
 
その中のひとつを紹介してみたい。
 
30年以上も前、サンフランシスコに本社のある
コカ・コーラ カンパニー・オブ・カリフォルニアで勤務していたことがある。
 
日本コカ・コーラが始めた「経営者育成プログラム」の一環で、
コカ・コーラのメッカであるアメリカで数年間修行をして
日本に帰った後は然るべき経営職に…、という企画である。
 
ある経営会議の席上でのこと、話題は社員の動機づけの面に及んだ。
 
何人かの幹部社員から
「ぜひ我が社もインセンティブ・システムの導入を」という声が出た。
業績の良い社員や事業部には特別ボーナスを出すようにしてくれという、
社長に対する要望である。
 
しばらくジッと耳を傾けていたデール・アレグサンダー社長はおもむろに口を開いた。
出た言葉が、
「Your incentive is in your pay-check!(インセンティブはペイチェックの中にある)」。
 
社長のこの言葉に会議室は一瞬静まり返った。
全員が「やられた!」と心の中で叫んでいたに違いない。
 
 
インセンティブ・システムとは、有り体に言えば、
「良い仕事をして良い成績を上げた人には、お金をあげます」
という仕組みのことである。
 
それ自体悪いことではないが、
気をつけないと本質を見失うという過ちを犯すことになりかねない。
 
本来あるべき姿の動機づけとかヤル気とかいうものは、
金という餌をちらつかせてあおるものではない。
金とは無関係に、日常の仕事の中に組み込まれているべきものだ、
というのが、アレグサンダー氏の《正論》である。
 
「インセンティブ・システムは、あくまで動機づけのための補助手段にすぎず、
 主体ではない。 諸君は、日常の職場での業務において
 部下に対してヤル気をおこさせるようなマネジメントを行っているか否かをまず問え!」
 
「インセンティブはペイ・チェックの中にある」というアレグサンダ―社長の言葉は、
今でも忘れられない。
 
 
ジョンソン・エンド・ジョンソン、サラ・リー・コーポレーション、
ホールマークなどの外資企業の社長職を担当している間に、
ストックオプション、パフォーマンス・インセンティブ等の
数々の「餌」の提供にあずかった。
 
それ自体は結構で有難いことなのだが、何度となく胸に中で呟いたのは、
「別にこんなものはなくとも自分は全力投球するのに…」
という言葉である。
 
ストックオプションが動機づけにプラスに働いたというケースは
アメリカでは25%にしかすぎず、日本では10%以下であるという説がある。
 
社員の動機づけを金というインセンティブでしか買えない経営者は、本物とは言えない。
 
 

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