先日、N社の現場で改善活動をしていた時のことです。課長のSさんからこういう質問を受けました。
「柿内さんは、どうしてそんなにいろいろな問題を見つけることができるのですか? 我々がずっとこの現場で働いて、全く気が付かなかったことに気付けるのはなぜですか?」
これは、私にとってとても嬉しい質問です。もちろんこんなことはめったにありませんが、このようなことを言われてしまうと、嬉しくてつい舞い上がってしまいます。
「あっ、それは私が天才だからです!」と答えたいのですが、実際は全くそうではないので、今回も冷静に本当のことをお話ししました。
「それは、この現場でずっと改善をしながら働いてきている皆さんと、コンサルタントとの時間の違いです。例えばSさんは3年前から課長として大変な苦労をしてこの職場を変えて来ました。そのころの現場はモノが多くて、汚くて、品質も悪くて、とても困った状態であったのを、毎日毎日、一歩一歩、みんなを説得し元気付けしながら改善を積み上げてきたのです。やりたくてもすぐにはできないので、まだやっていないこともたくさんあるはずです。」
「一方、コンサルタントである私はそのような長い時間を、ここで過ごしておりません。全く知らないわけではありませんが、その長い時間を共有していないので、現在のこの瞬間の現場だけを見て良し悪しを判断するしかないのです。したがって、過去との比較ではなく、あるべき姿との比較しかできないのです。皆さんはこれまで長い時間をここで過ごしておられる分、どうしても現実的なところに目が行ってしまうので、すぐにできそうもないことに気付きにくいのかもしれません。」
すなわち、現場の当事者である皆さんにとっては、この目の前にある現在の現場の状況は、長い歴史の中の一部です。ですから、前と比べるとずっといいとか、ここまで来るのにすごく苦労したという気持ちの上に今日の現場があるということです。
例えば、以前は工場中に山のような中間在庫があって見通しは全くきかなかったのが、長い時間はかかったけれど、今はこんなに減って向こうが見えるようになったという歴史があります。すなわち、「在庫は急には減らないものだ」という経験上の判断があるということでもあります。
ところが、コンサルタントは過去を全く知らないので、目の前にある今の状況がすべてなのです。だから同じ在庫を見ても、「ボトルネック工程じゃないんだからここに在庫はいらないじゃないか!」と考えます。理想的な在庫の量はゼロだからです。
この見方の違いは、別の言い方をすると、工場の皆さんはこれまでと現在の状況を前提に改善を考えるので帰納法的(きのうほうてき)なアプローチ、そしてコンサルタントはあるべき姿に近付けることを前提に考えるので演繹法的(えんえきほうてき)なアプローチといえると思います。
どちらが正しいではなく、両方正しいのです。しかし違いがあるのですから、その間のすり合わせをするのです。
コンサルタントの言うことを今すぐやるのは難しいけれど、一歩一歩近づくのであれば可能だから、まずこんな改善から始めてみようか…といった話し合いができればいいですね。これは先回お話しした「知のすり合わせ」といえます。
次回は、ではどうやって在庫を減らすかについてお話しいたします。