■鈴木博毅(すずきひろき)氏 「超」入門 失敗の本質』著者/MPS Consulting代表取締役
戦略書や戦争史、企業史から勝てる組織と負ける組織の違いを追求し、失敗の構造から新たなイノベーションを起こす戦略コンサルタント。慶應義塾大学卒業後、貿易商社にてカナダ・豪州の資源輸入業務に従事。その後、コンサルティング会社を経て独立。戦略立案や組織改善をクライアントに指導し業績向上と成長をもたらしている。また、顧問先には顧客満足度調査1位を獲得した企業や国内シェアNo.1の企業などがある。主な著書に『「超」入門失敗の本質』『伝説の経営者たちの成功と失敗から学ぶ経営者図鑑』『戦略の教室』『戦略は歴史から学べ』『いい失敗 悪い失敗』他。京都大学経営管理大学院修了。
※本コラムは鈴木博毅氏「失敗を防ぐ経営と戦い方」発刊にあたりインタビューを編集したものです。
挑戦をしても、大きな失敗を未然に防ぐために
Q:失敗学とはどのようなものでしょうか?
鈴木講師:
失敗学とは、1.失敗の構造を学ぶこと、2.失敗の入り口は身近なところにあると気づき、失敗を避ける方法を学ぶ、3.同じ失敗を繰り返さないために自分を理解する、4.失敗をした場合のリカバリー能力を高めること、の4つの要素で構成されています。
失敗は、どんな組織にも、どんな個人にもなじみのあるものであり、失敗を繰り返さない人や組織のみが、成長を継続できる人、成長を継続できる組織なのです。だからこそ、失敗学は誰にでも、どんな組織にも必須だといえます。
Q:過去の歴史上の失敗から経営者は何を学ぶべきでしょうか?
鈴木講師:
大きな失敗の入り口は、小さな躓きや、小さな間違いから始まると理解することが大切だと思います。ごく小さな判断ミスが、大きな失敗につながってしまう。
通常ほとんどの組織や個人は、小さな間違いを大きな失敗につなげないために、効果的な方針転換や誤りを認めることを行います。しかし、歴史上の失敗はそれが機能しなかった。その「効果的な方針転換や誤りを認める」という部分を学んだ方は、小さなミスを大きな失敗に発展させずに、成功を継続できるようになるはずです。
過去の歴史上の失敗を、単に当事者が愚かだったから、と考えるのは不適切です。なぜなら、組織の指揮を執るのは、大抵その時代でエリートと呼ばれる、一見優れた人物だと判断された人たちだからです。
歴史上の失敗は、手抜きでもなければ、関係した全員が愚かだから起こったわけでもありません。一般的な能力を持つ人たちが全力を傾けながらも、関係者全員が失敗の構造に気づけず、失敗の構造から脱出できなかったことで起こった人災的な破局だと考えるべきなのです。
Q:失敗して倒産する企業と成功する企業の差はいったい何でしょうか?
鈴木講師:
失敗が破局(倒産)に近づいていくには、複数の段階があります。
そのため、失敗をしてしまった状況を正しく理解する企業は、すぐに問題を把握して対策に乗り出す。だからこそ、失敗を最小限にとどめて新しい軌道に戻れるのです。
破綻に近づき、最後は倒産してしまう企業内では逆に、「誰かがあるいは何かが」、状況を正しく把握すること、改善策を早急に打ち出すことを拒絶しているのです。そのため、大多数の社員が「このままではダメだ」と実感していても、坂道を転げ落ちていってしまう。
ワンマン経営には、強みと弱みがあり、トップあるいはリーダーが時代の状況に合わせた判断力を持っているときは、実行力が高いのでめっぽう強い。一方で、トップが時代の感覚からずれてくると、誰もトップに意見を言えないので、正しい方向転換がとても遅くなってしまう。
もう1つ追加するなら、倒産企業では業績を上げる、成績を改善する以外のことを行っている社員の比率が高い。典型的な例では、社内での派閥や縄張り争い、また社内政治に熱中している幹部など。このような、不適切な行動と人物を排除できないことも、破綻企業の特徴だといえるでしょう。
逆に成功企業は、仕事そのものに集中している社員の割合が高いのです。社員が仕事に集中できる制度や仕組み、体制などをきちんと整備している。
現代的な事例では、倒産見込み企業にはサボタージュを行っている幹部や外部の専門家もいる可能性があり、倒産へ向けた歪んだ動きやかじ取りを阻止する知恵が、リーダーに求められるときもあります。破産する企業では、「正しい方向転換ができない何らかの力学」が内部で働いています。それに気付けるか、その歪みを排除できるかが運命を左右します。
また、一時的に成功した企業が「過大な投資」をしたときも危機が拡大します。例えば、一時的に売上が急上昇した会社が、高額な本社ビルを購入してしまう、過大な投資をしてしまうなど。もし、その高額な投資物件を維持できない場合は、どこかで手離す必要があります。
それが損切りになっても、会社自体が破局を迎えるよりはよい。これは個人の人生にも同じことが当てはまります。成功している企業は、不採算事業に関して見切りをつけるのも早いものです。
Q:後継社長は、挑戦をしつつも、大きな失敗を未然に防ぐためにはどのような視点が大切でしょうか?
鈴木講師:
2つの視点が大切だと思います。
まず1つ目は、現時点あるいはこれまで会社を支えてくれた人たちを正しく理解することです。そして、現場の人やそのような会社を支えてくれている人たちの功績や活躍を正しく認めてあげること。
その意味では、「誰が仕事で一番頼りになるか?」「この部門で一番優秀な人は誰か?」などの質問を、いろいろな社員の方に投げかけてみるのもいいでしょう。会社内で実務を動かしている人たちの心を理解して心をつかむことは、さまざまな意味で失敗を防ぐ土台になってくれます。
さらに、そうして見つけた社内で優秀な人たちの影響力を、効果的に広げておく。そうすることで、社内にはポジティブな雰囲気と良いやる気が出てきます。優秀な人、努力をした人がフェアに認められることは、周囲に広く伝播します。
2つ目は、挑戦の型を知っておくこと。収録の中でもお伝えしましたが、顧客を増加させるには、適切な型があります。良い挑戦の型に近い形で一歩を踏み出すと、期待通りでなくとも、良い影響が会社の中に出てきます。
一方で、無謀な挑戦はよい挑戦の形とは真逆なことをしてしまうことです。その場合、失敗すると大きな損失を抱える割には、会社内に良い影響が残らないのです。良い挑戦とは、どんな挑戦であるかを研究してから一歩を踏み出すことがとても大切だといえます。
Q:これから失敗学を活用するにあたり、まず、社長は何から始めるべきでしょうか
鈴木講師:
成功している企業の「当たり前」に照らして、自社の何をアップデートしなければいけないかを理解すべきでしょう。強みというのはどの企業にもありますが、特定の弱みは、強みだけではカバーできないものです。
ビジネスに重要な要素なのに、時代遅れになっている部分がどこにあるか、それをどうすべきかをまず検討して頂きたいです。
もう一つは「気づきを得る」ために、自社のビジネスをこれまでと違った視点で見ることです。今回の収録内容は、その気づきを多くもっていただけるような内容にしています。自社の内側、自社の外側(他社や社会環境)をこれまでと違う視点でとらえて、改善点を発見していくことが望ましいと思います。
もう一つ、「変化」を受け入れてむしろ未来を自分から変えていく意思です。失敗や破綻の多くは、自己革新への熱意がないことで生まれているからです。
Q:最後に「失敗を防ぐ経営と戦い方」を聞かれる社長の方々にメッセージをお願いします。
鈴木講師:
収録内容を聞くことで、ぜひ自社の課題を多く見つけて頂きたいです。自社がどんな課題を持っているか、理想の状況に至るには、どんなゴールを設定すべきか。課題を発見する力、ゴールを設定する力は、そのまま未来を変えることにつながります。
会社の業績を好転させたいと思うなら、よい課題を見つける必要があります。聞きながら、「自社はどうだろうか?」「自社はできているか?」と、ぜひ自問を繰り返して頂きたいです。きっと、聞き終えたときには多くの課題を頭の中に抱えていると思います。ぜひ、その課題を一覧にして、実行計画を立てて動き始めて頂きたいです。失敗学に触れることで、成功に至る道に気づく。これが本収録の最大の目標なのですから。