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マネジメント

<楠木建のリーダーシップ学②>リーダーシップの身につけ方

楠木建の「経営知になる考え方」

リーダーシップを身につける方法

 リーダーシップはスタイルであり、スキルではない、という話を前回した。

 だとすれば、どうすればリーダーシップを身につけることができるのか。スキルではないから、教科書はない。優れたリーダーになるための定型的な方法論や一般法則は存在しない。こういってしまうと、元も子もないというか、打つ手なしということで、滝に打たれて瞑想すべし、とかいう精神世界に一挙にジャンプしがちだ。

 しかし、そこまでいく必要はない。一見、迂遠に聞こえるが、リーダーシップを身につける近道は、優れたリーダーを「視る」ことに尽きる。僕はそう思っている。

 

「観察」の妙味

 前回も話したように、かっこいい人がすぐにそれと分かるように、優れたリーダーは簡単に見分けがつくものだ。ああこの人にはリーダーシップがあるな、と自然と思わせる人なら誰でもいい。まずはじっくりと観察することから始めたい。

 リーダーシップはスタイルだから、日常の一挙手一投足にその人のスタイルがにじみ出ているはず。会議での議論の進め方やその人の交渉の仕方、部下への指示の出し方はもちろん、ちょっとした電話のかけ方、メモの取り方、デスク周りの整理の仕方、さらには食事の仕方、歩き方、笑い方に至るまで、観察可能なあらゆる現象にその人のスタイルが現れている。それを「視る」ことが大切だ。しかも、ただ漫然と眺めるのではなくて、その人のスタイルを見つめ、見つめ続け、そして見破る(あまり見つめているとあらぬ疑いをかけられるので、この辺は要注意)。日常的に観察可能な断片を凝視しているうちに、一つ一つの断片のつながりが見えてくる。ここまでくれば、しめたもの。その向こうに、総体としてのスタイルが、徐々にではあるけれども、浮かび上がってくる。

 そうして見破ったその人のスタイルが、自分に向いてない、あまり好きになれないものであったとしても、それはそれでいい。一貫したスタイルをもつとはどういうことか、なぜ一貫したスタイルが人をリードしていくために不可欠なのか、こうしたことをまずは理解することが大切だ。自分が漠然と考えるあるべきスタイルと違っていたとしても、逆にそのことが自分の志向するスタイルが何であって、何ではないのかをはっきりとさせてくれるだろう。このような「視る」トレーニングを日常的に重ねているうちに、だんだんと自分のスタイルができあがり、熟成されてくる。

 

視る力の無い組織は弱体化していく

 リーダーシップがスキルではないとすれば、リーダーシップの「研修」をするというのは、本来的にいって無理がありそうだ。実際の仕事の場で、「見て見破る」経験を意識的に重ねていく。これがリーダーシップ養成の本筋だろう。したがって、優れたリーダーがたくさんいる組織には好循環が生まれる。数多くの多様なスタイルを見つめる機会が豊かにある組織ほど、次世代のリーダーも育ちやすい。逆に、ろくなリーダーがいない組織では、そもそも視る対象に事欠くわけで、リーダーが育つ確率も小さくなってしまう。ここから悪循環が始まる。強い組織はより強くなり、弱い組織はますます弱くなる――こうした傾向の背後には好循環と悪循環のメカニズムがありそうだ。

 もちろん、マネジメントが意図的にできることは多々ある。たとえば、「メンター制度」などは、「視る」トレーニングを促進する仕組みとして有効であるかもしれません。ただし、この場合、きちんとしたスタイルをもっている人をメンターにする必要がある。メンターに学ぶ人々が「見て見破る」経験をお互いに共有したり、自分のスタイルを内省して他者に説明することによって、より一貫したスタイルを構築するために有用な機会を提供できるかもしれない。

 いずれにせよ、「スキル」の教育に比べて、こうした取り組みは企業ではまだほとんど手がつけられていない。マネジメントとしてどのようなことができるか、考えてみる価値はあると思う。

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